Tohoku Fukushi University

小川教授を支える、測定法開発と分析のスペシャリスト

成 烈完(そん・よるわん) 年生まれ。東北福祉大学特任准教授。1991年以降、日本で研究活動を行う。専門は制御工学、現在の研究分野は脳計測科学、認知科学。趣味は読書で、印象深いという本はヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」

ーーMRIって、病院で検査に使用される機器ですね。それと、本学の感性福祉研究所にあるMRIはどう異なるんでしょうか

 病院で用いるものは解剖的画質なので、脳全体ならばおよそ5分で19〜20枚の画像が撮れます。今研究所にあるfMRIは、脳の機能を調べる測定のためにあり、脳全体を1秒で20枚まで撮れるものを用いています。小脳から頭頂部までは0・5秒。研究で用いるものは、脳を3ミリ刻みで切って空間解像度を上げて検証しています。

 機器の磁力は3テスラ。1テスラが10000ガウスで、地球の磁場が0.5ガウスとすると、その6万倍の磁力です。磁力が強ければ強いほど、解像度が上がる。もっと磁力の強い機器を持っているところもありますが、3テスラでやれることを最大限にやろうと思っています。

ーーこれを用いての、先生の今回の研究の役割は

 横断データはバックグラウンドになります。縦断データは特定部分の変化が分かります。私はMRIデータを解析しています。今回のプロジェクトでは神経線を解剖画像、機能的画像で測っていますが、平均して200〜300人を2カ月に1回測定するのが目標ですから、毎日4、5人は撮らないといけない。えらいことをしてしまったなあ、と思います(笑い)。

 fMRIは空間解像度が測りやすく、放射線を用いないので(生体を傷つけず)安全性でも勝るものはないと、今のところはいわれています。刺激を与える実験に制限はありますが、今後も研究をクリニカルに応用するケースは増えるでしょう。アメリカやヨーロッパでは、研究規模も大きくて、(医療のために)多い所は10000人のデータを継続して処理しているところもある。測定には時間と人と努力が必要ですね。

ーー小川教授と研究をともにして長いそうですが、もともとの専門は

 電子工学の制御工学が専門でした。機械で考えると、ロボットの腕があるとして、腕となる棒を目的まで動かすときに電気信号を与えて操作します。そこで風が吹いた場合でも、その誤差も計算して計画通り目的地に持っていく。それを制御と呼んでいます。自動ドアも、人を検知する制御装置がある。電気炊飯器にも、電圧をコントロールする制御装置がついています。1960年代に飛んだロケットには、簡単な制御理論が使われていました。私はその理論を中心に学びました。ただ理論的過ぎて、実用的ではなかったかな(笑い)

ーーそれがどうして脳の研究に

 人工臓器のうちに入りますが、視覚を生かすため、目が壊れた人に外を見せようという研究がありました。私はカメラの信号を脳に送る方法はないか、無線信号を脳に送れば同じじゃないかと考えた。2000年に、これをある会社に企画提案として送ったんです。それが小川先生の研究をサポートしている会社でした。

 視覚の神経は、網膜から100万本もの束がある。目から脳に送る信号線が100万本。視覚に刺激を与えると、脳の70〜80%が活動するんです。耳と比べると複雑です。聴覚のほうが脳で活動する部分が少ないんです。この研究は、複雑でした。小川先生とは、その翌年の2001年から研究をすることになりました。

ーー制御工学の理論は、どう脳の研究に生かしているんですか

 制御機能の理論を理解すると、脳の理解もしやすい。入力と出力。脳のメカニズムも一緒なんです。例えば手のひらに棒を置いて、倒れないようにするとき、目で見て手の動きを調整しますね? 情報を得ながら、立たせようと誤差を修正する。生体は非常に複雑ですが、人の頭自体が完璧な制御システム。最適に処理する制御システムが脳なんです。

 ちなみに、脳に関して、すべて分かる人はいません。世に出ているいろんな論文を読めば、一流の脳科学者のような振る舞いができますから、分かったように話す人がいたら、疑って聞いた方がいいかもしれません(笑い)。

ーー今回のプロジェクト、今後はどのように展開していきたいですか

 大学のカリキュラムは、学生を育てるのが目標ですね? そのカリキュラムをやることによってどのような学生が育つか。MRIで信号を測って変化を見出す努力をし、機能的変化の過程を推測する。訓練によって脳が変化する部分が分かれば、そこを活性化させればもっと能力が上がる。これを教育や職業に応用できることになると思っています。

 3、4年撮って、脳の向上を調べる。グループ間の違いを見つけ出したり、心理データと合わせて、職業適性に関わる部位を見つけて、適性のパラメータをつくりたいです。タイプ分けのプロトタイプというか、データをコンピューターに認識させ、脳の形を学習させ、心理データとまとめていきたい。あとは、脳のメカニズム、信号の処理の解決をして、時間情報を測れるようになれれば。いろんな測定法を試していきたいです。

東北福祉大学 特任研究員
姜 大勲

〈研究にひとこと〉

私はMRI測定シーケンスの開発とMRI画像処理に関する研究を行っております。戦略事業では、より精度の高い測定方法の開発をしております。

東北福祉大学 特任研究員
亀井 裕孟

〈研究にひとこと〉

私は言語処理にかかわる脳の働きについて研究をしております。音素、単語、そして、文章処理にかかわる脳の部位の検索と言語処理過程でそれらの部位がどのように協力しあうのかについて調べております。戦略事業では、学習・訓練などに関与する言語関連脳部位の検索とそれらの部位がいかに変化するかを追跡しております。

東北学院大学 教授
加藤 和夫

〈研究にひとこと〉

私は脳波(EEG)により認知・脳機能の研究を行っております。戦略事業では、学習・訓練等に関連して変化していく脳の機能的変化を、脳波を用いて追跡しております。

経験は、脳をどう変えるかー適応性の一端を探る〝記憶の専門家〟

藤井 俊勝(ふじい・としかつ)
東北福祉大学健康科学部兼感性福祉研究所教授。
医学博士。専門は認知脳科学

ーーまずは、プロジェクトの縦断研究と横断研究についてですが

 (Cグループの)河地先生が中心になって行っているのが、大学に入学して3年教育を受けるとして、複数の同じ被験者に3年間心理テストを続けて、学習成績が上がってきたときに脳がどう変化しているかを見る。学科によっても学ぶことが違うので、脳に違う変化が起こっているかもしれない、と。これが縦断研究です。

 一方、同じ職業を続けてきた人、例えば医師や看護師を20年やった人と、一般の会社員を20年やった人では、血を見て「ドキッ」とする反応が変わるかもしれない。銀行マンを20年やった人とそうでない人では、数字を見たときの脳の反応が違うかもしれないという、継時的でなく一定的時間が経ったときに見比べるのが、(Bグループの)横断研究です。

ーーそれを踏まえて、今行っている研究を説明していただくと

 一緒に庭野先生と田邊先生とやっていますが、その1つが、保育実習に行く人と行かない人、行く前と行った後で、乳幼児の写真を見たときの脳の反応が、どう変わるか。保育実習に行く約30人と、行かない約30人の脳をMRIで撮影して見比べています。少し、縦断研究にも入っちゃいますが(笑い)。

  保育実習を終えて帰ってきた人と、実習に行っていない人で、違いが出ているとおもしろい。子どもを産んで子育て経験がある人と、そうでない人の比較ができれば一番わかりやすい結果が出そうですが、これは被験者を集めるのがなかなか大変だと思いますから。

ーープロジェクト参加のきっかけは

 福祉大に来て3年半になりますが、前のプロジェクト(平成20年度文部科学省戦略的研究基盤形成支援事業「児童青年期精神障害および高齢者関連疾患における先進的個別化予防ケアシステムの構築に関する研究」)のときから、外部参加していました。そのうちの1つに近い今回の研究は、MRIという手段を中心に据えています。

ーー脳の研究に携わるようになったのは、いつから

 もともとは神経内科の医師で、認知症など脳に関係した病気が専門でした。24歳から37歳まで大学病院から現場に派遣されて、半年か1年で病院を異動する生活でしたね。脳卒中の患者さんをみていると、脳のある場所が壊れると特殊な症状が出てくる。不思議だな、と思っていたら高次脳機能障害室が東北大学にできて、37歳で戻った。そのときから研究の方が中心になりました。

 1990年ころからPET(陽電子放射断層撮影)やMRIで脳の血流が測れるようになって、健康な人の、壊れていない脳の研究もできるようになってきた。2000年代からは、機能的MRI(fMRI)を使うのが主流になりました。「高次脳機能」には、言葉、記憶、注意力、物をみて認識するとかありますが、中でも記憶に関してはずっとやっています。例えば、何を言ったかは覚えてるんだけど、誰にいった、聞いたとかは忘れてることってありますよね? そのときでも記憶は、話の内容を最低でも「覚えている」「思い出す」と脳を2回使うんですよ。

ーーやっぱり、学生時代からこの分野を目指そうとしていたんですか

 高校のころは「バンドでメシを食ってやる」って感じでしたね。ギターとベースをやっていました。(流行っていたのは)世代的に、ビートルズもローリングストーンズも終わって、イーグルス。ただ普通の家庭に生まれたので、親に「何か資格を取りなさい!」と言われて、医学部に進んだ(笑い)。当時から脳や心理には興味を持ってはいましたけどね。もちろん、大学でもバンドは組んでいましたよ。

ーー研究をやっていて、どんなときが楽しい?

 ちゃんとした結果が出て、外国の雑誌に受理されたときですね。研究って、だいたい最低でも3、4人のチームでやるんですが、それも楽しい。今は全般的に研究者の人手が少ないんですよね。研究する人が増えるといいなあ、と思っています。

 今回のプロジェクトに関して言えば、まずは2つのグループの比較で、一義的でも違いを見つけることが大事だと思っています。差が出ないと、何も結果が出ないのと同じ。比較して差が出た場合でも、事前に認知・性格テストをやっているので、その成績とどう関連しているのか。(発表できる)結果を出そうとしたら、いろいろなことをやっていかないと。最もいい結果が出れば、いい雑誌に乗るだろうし、大したことがなければそのレベルの論文にしかならないし、何もなければどこにも出ない。とにかく今は、結果が出てほしいですね。

実習、学習がもたらす脳の変化を、発達心理学的見地から解明する

庭野賀津子(にわの・かつこ)
東北福祉大学教育学部教授。
教育学博士。言語聴覚士・臨床心理士。専門は言語聴覚障害学、臨床発達心理学。
学内外の公的な職務も多く、執筆活動も行うなど精力的

ーー今回のプロジェクトでの、先生の研究と目的を教えて下さい 

 もともとコミュニケーション発達の研究をしていました。お母さんと赤ちゃんの関わりを通して言語やコミュニケーションが発達していく事象を、音響分析を使って物理的な定量データを用い、心理学的に解明していくというものです。

 ただ、脳から調べないと分からない部分が多いのです。表情など赤ちゃんが発信する情報を大人がどう受け止めているか、これまでは、NIRS(ニルス、近赤外線分光法)を使って、脳のどこが活性化するかを調べてきました。NIRSですと被験者に負担をかけずに測定できますが、脳の表面、大脳皮質の血流しか見られません。

 脳の賦活(ふかつ)、どこが活発に動くかは、実際は表面だけでなく、深部でいろいろと起こっています。今回のプロジェクトではfMRIを使って、赤ちゃんが発する情報をどう処理し、感情面でどういう動きが起きているかを、脳科学的に解明するのが目的です。

ーー研究はどう進めていく予定ですか

 保育士等の専門的職業人を養成するための現場実習の前後で、脳機能にどう変化が起きるか。さまざまな要因との関連の解明も検討しています。近いうちにその成果を国際会議で発表する予定です。海外へもどんどん発信していきたいと考えています。

 脳機能というのは、それぞれの部位が単独でなく、ネットワークで動いています。今回のプロジェクトでは、職業や育児において、脳内ネットワークが変化したり、また形成したりしていく事象を解明できると思っています。fMRIのボールド信号は、実際の神経活動より少し遅れて捉えられるので、事象関連電位などによる測定もしていきたいですね。

ーーところで、先生の専門は?

 専門は臨床発達心理学です。発達というものは、大人になっても続くんですよ。大学生や社会人になっても、学習や環境によって変化します。これを発達的変化と捉えて、発達心理学的アプローチをもとに脳科学で解明していきたいと思います。

 多くの人がいずれ親になっていきますが、その「親性」がどう発達していくのか、今は興味を持っているところです。「相互作用」もキーワードです。親も子どもも互いに影響を与え合い、相互作用しながら発達していきます。両者の発達を見ていければ、と思っています。

ーー脳の研究に至るきっかけを教えて下さい

 大学で言語障害を専攻しておりましたが、言語障害というのは、そもそも脳の高次な機能障害ですので、言語障害を学ぶためには脳科学を学ぶ必要があります。ですから、今、脳の研究をしていることは、私にとっては自然な流れだったと思います。

 また、大学在学中に1年間、国費留学により米国で発達心理学を学びました。心理学というのは、日本では文系の学問として捉えられがちですが、米国では理系の学問として位置づけられています。そのため、心理学の研究をするには、理系的なアプローチが必要であることを実感しました。日本では、心理学の分野で脳科学の研究をする人はまだまだ少ないので、心理学系の学会でも研究成果を発信していきたいと思います。

 大学卒業後は数年間、養護学校、聾学校の教員をしていました。障害児の心理や行動を理解するには、表面だけではつかめません。言葉を発しない子どもさんが、例えば手を少し動かすなどの、微弱な発信をするときがあります。それをどう捉えてどう解釈するかは、こちらの主観でなく、科学的に、分析的に捉えないといけない、もっと心理学を勉強しなくては、と思いました。

ーー教員から研究者になろうとしたのは、いつからですか

 自分の子どもがまだ小さかったころ、夫が理系の研究者ということもあって泊まり込みで実験にとりかかることも少なくなく、子どもが病気のときにはたびたび私が仕事を休まざるを得ませんでした。そこで、2人目の出産を機に、育児のために教員をやめたんです。数年間自分のキャリアにブランクを空けてしまいましたが、その時間を学ぶチャンスに変えようと大学院に通い、母子のコミュニケーションの研究に取り組み始めました。学位を取得した後は、教員ではなく、研究者という立場から障害児教育の現場に貢献していきたいと思うようになりました。

 学校現場の先生には経験から来る原理原則があるかもしれませんが、特に障害児教育においては科学的なデータやエビデンスをもって教育しないといけないと考えています。(教育学部の)自分のゼミでは教員を目指している学生が多いですが、そのゼミ生にも、脳科学の基礎を学ばせ、科学的な視点を持つことの大切さを教えていますよ。

東北福祉大学 准教授
田邊 素子

〈研究にひとこと〉

私どものグループでは、子育て中の保護者に焦点をあてた研究を行っています。育児中に感じた経験や疑問を活かしつつ、脳機能画像という手法を通し育児に関係する神経基盤を明らかにすることで育児支援の新たな展開を目指していきたいと考えます。

東北福祉大学 准教授
河村 孝幸

〈研究にひとこと〉

本学の予防福祉健康増進推進室が主催する運動教室では、手足を動かす運動と知的課題を組み合わせた複合型運動プログラムを導入しています。このような複合型運動の得意、不得意と脳機能との関係について明らかにしたいと考えています。

東北福祉大学 特任講師
伊藤  文人

〈研究にひとこと〉

このような独創性あふれるプロジェクトに参加させていただき、大変光栄に思うと同時に,私がこれまで培ってきた研究スキルを発揮し、少しでもプロジェクトの成功に貢献できるよう努力していきたいと思います。

国立障害者リハビリテーションセンター室長
幕内 充

〈研究にひとこと〉

私は言語処理にかかわる脳の働きについて研究をしております。音素、単語、そして、文章処理にかかわる脳の部位の検索と言語処理過程でそれらの部位がどのように協力しあうのかについて調べております。戦略事業では、学習・訓練などに関与する言語関連脳部位の検索とそれらの部位がいかに変化するかを追跡しております。

京都産業大学 教授
奥田 次郎

〈研究にひとこと〉

人間の認知や記憶に関わる脳活動を機能的MRIにより調査する研究に加え、脳波や視線計測を用いた脳認知情報の解読と個人の脳機能向上補助のための介入方法の検討を行っています。

京都大学 准教授
月浦 崇

〈研究にひとこと〉

京都大学 特定准教授
阿部 修士

〈研究にひとこと〉

私はこれまで、主に人間の意思決定をメインテーマとして研究を進めてきました。本研究プロジェクトでは微力を尽くしたいと思います。

琉球大学 准教授
姜  東植

〈研究にひとこと〉

私は与えられたデータから特徴を抽出する手法の開発及び応用について研究をしております。戦略事業では、心理データ及び脳画像データから学習・訓練などによる変化を表現する特徴要素を抽出するプログラムの開発を行っております。

東京大学 特任研究員
山本 絵里子

〈研究にひとこと〉

私は高精度測定法や新たなデータ分析法等を含む脳機能イメージング技術の開発に関する研究を行っております。戦略事業では、特に、学習・訓練と身体動作にかかわる知覚機能について研究をしております。

脳の「理解」を理解する、心理学からのアプローチ

小松 紘(こまつ・ひろし)
東北福祉大学名誉教授。専門は認知心理学。
2015年3月まで本学総合福祉学部福祉心理学科教授で、
1977年から84年まではテニス部部長を務めた

ーーこのプロジェクトでの役割を教えてください

 今は個別テーマで研究にあたっていますが、私の場合は、「『理解』の認知科学的研究ー特に『意識』の覚醒度と集中度の視点から」。全体では、社会的・職業能力を育てるプログラムをつくろうとしていますが、その中で私は心理学的領域なので、認知科学的方法論をとっています。職業能力が育つためには、理解能力が育たないといけない。その「理解」も、いろいろな影響を受けますが。

ーー具体的に、「理解」が受ける影響とは

 例えば、一番身近なことでいえば、目覚め具合、覚醒度合いですね。起きてぼーっとしているときに、いろいろ言われてもよく頭に入らないでしょう? かといって、興奮状態のとき、いわゆるパニック状態のときも正確な「理解」とは無縁な状態にいます。

 その関係は、縦軸をパフォーマンス、横軸を覚醒水準として逆U字曲線を描く「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」で示されています。ちょうどいい水準の目覚めの状態が、いい理解を進めるんです。理解に、アラウザル(覚醒)や不安がどういう影響しているか、この極端なケースをまずは抑えて調べようとしています。

 2つ目は注意力の問題。意識が対象に向いて情報処理ができて、初めて理解になる。これも不安や緊張の水準に影響を受けます。これらから仮説としては、「意識の適度な覚醒度と集中度が私たちの理解を正しく導く」というところになりますね。

ーー研究の進み具合はどうですか

 今年の目的は、アラウザルや緊張、不安といった心的影響による理解の調査です。アラウザルや不安の水準の高低で、理解の水準をはかる。今はまだ紙ベースですが、すでに200人以上のデータをとりました。STAI(状態・特性不安検査)という不安を測るテストも使いながら、基本パターンのパーソナリティーを開放性、勤勉性、協調性、外向性、情緒の安定性の、いわゆる〝ビッグファイブ〟で被験者を分類して、それぞれの理解のしかたを見ていこうとしています。

 来年はコンピューターを使った手法も行っていきたい。不安の、実験的測定法も使ってみようと思っています。蛇とか赤ちゃんとか、ある刺激を瞬間的に見せて反応をみる。提示されたシグナルに対する反応時間がそれぞれ違うと思うんですよ。フリッカー(光の点滅)をつかった測定法もつくりたい。「理解」の背景になるメカニズムを、理解の領域から調べようと思います。

ーーしかし、「理解」を理解する研究ですか。何とも、難解ですね

 心理学の目的は、人間を理解すること。その「理解、って何」という、認知心理学の非常に重要な問題に立ち向かおうと思っています。それが分かってくれば、職業、産業的スキルを身につける大事なコツみたいなものが習得できるんじゃないかな、と。

ーー平成30年度いっぱいまでプロジェクト期間があります。今後はどのように研究を展開していくつもりですか

 われわれのBグループは、横断的にパーソナリティーの特徴を見ていますが、今はすべて健常者が対象。ただ、中でも不安や覚醒度が極端に高い人もいる。そういうパーソナリティーを持った人が、能力を身につけていく過程でどういう問題が出るか、どういう配慮をしなければいけないのか。いずれは、クリニカルな領域に入らざるを得ないのかな、と思います。クリニカルな問題を抱えている人に、なんらかの助けというか、〝福音〟となるものを見つけられれば。そのサインを早期に見つける方法に出会えれば、最高ですね。

ーーところで、研究をやっていてやりがいを感じるときは

 覚醒度や不安、緊張を捉える技法はないか、と探していて、今年の2月かなあ。1970年代に仕事を始めたころの、色彩をテーマに視覚化処理を研究した自分のデータと、1987年の、アラウザルに関するインドの論文で、符合するところがあったんですよ。ずいぶん論文も読んできたつもりだったけど、40年経って「狙いの異なる人間が、地下水脈でつながっていたんだ」ーーと思うと、研究は面白い。

 理解っていうのは、心理学の大問題。これを最後に取り組めるっていうのが、嬉しいねえ。この春に定年したけど、気持ちは30代、40代に戻りました。今からですよ。また、新たな勉強をしようと思っています。研究室でも「席どうぞ!」なんて、定年前より良くしてもらってるしね(笑い)。

東北福祉大学 教授
浅野 弘毅

〈研究にひとこと〉

東北福祉大学 教授
松江 克彦

〈研究にひとこと〉

東北福祉大学 教授
滝井 泰孝

〈研究にひとこと〉

実験心理学とMRIで、大学教育の有為なプログラムを探る

河地 庸介(かわち・ようすけ)
東北福祉大学特任講師。博士(文学)。専門は実験心理学。
趣味は、周囲にあまり理解されない?現代音楽の鑑賞。

ーー専門が実験心理学ということですが、具体的にはどういう学問なのですか

 実験(認知)心理学では、人の心の働きをコンピュータといったような情報処理システムという観点から捉えて、実験によって実証します。物理的刺激を与えた結果としての様々な人間の反応を測定して、人の心(情報処理)のメカニズムを調べます。

ーー心理学を専門分野とし始めたのは、いつごろからですか

 大学で文学部に入って、1年生のときはいわゆる一般教養を学んで、2年時からコースに分かれた。そのときから心理学を学び始めました。昔は高校や中学の先生になりたいな、と思っていました。

 教員志望は、実際に良い先生に出会ったということもあります。でも大学を選ばなければいけない高校3年の頃に、視覚心理学や脳科学について書かれている記事を偶然読み、人の心のメカニズムを脳という物質と関係づけながら理解するというところになぜだかわかりませんが引き付けられました。心と脳といった哲学的な雰囲気も魅力的に思えたのだと思います。そして、自分も是非やってみたいなと思い、その勢いのまま高校や中学の先生になるのはやめてしまいました。とはいえ、今は大学教員となり講義も行っていますので、ある意味教員志望というのは変わっていなかったのかもしれませんね。

ーーでも世間一般的な文系・理系の概念からすると、文学部出身で理系の研究をしてるのは不思議な感じがしますね

 私個人としては理系や文系というのをあまり強く意識したことはありません。ただ自分の研究に必要なことをやっていたら、理系とも思われるような研究になっていたという感じです。実験心理学的研究をしていると、実験の結果からわかる様々な心の機能は脳でどのように実現されているのかなというように関係づけたくなります。その意味で、専門は心理学ですが、脳科学に抵抗感は全くありませんでした。

 最近は脳科学をしている心理学者の方々も多いですよ。私自身、大学院時代に指導してくださった先生にPETやfMRIを使う研究を行う機会を頂いた1人です。今思うと、運がよかったのかなと思います。

ーー研究の中では、MRIも操作されている。高校のころから20年近く経ちますが、今の自分って想像できました?

 どうでしょうね。でも、ここまで研究をやらせて頂ける環境で働けるとは思っていなかったと思います。

 またここまで心理学をやり続けるということも想像していなかったかもしれません。大学のときに実験心理学、心理物理学といった非常にいい学問・方法を教えていただいたおかげかな、と思います。直接測れない曖昧な心を、物理的刺激を与えた結果として現れる行動から推定する。いくら調べても謎は次々湧いてくる感じがします。実験心理学と出会えて良かったなと。あきることはありませんね。

 MRI研究は「脳の機能計測をやってみるのもいい」といわれて大学院からやり始めました。最初はPET研究でしたが、次第にMRIを用いた研究を行うようになりました。福祉大のように実験用にMRIを持っている大学は全国的にみてもそれほど多くないように思うので、福祉大はとても恵まれた環境だと思っています。

ーー改めて、今回のプロジェクトでの役割と目標を教えて下さい

 今は質問紙や心理検査を使った実験が多いですが、MRIも成先生と一緒に最大限やっています。成先生は脳科学が専門で、僕は心理学が専門。成先生とは、脳のデータだけで心理特性が分かるプログラムをつくりたいね、と話しています。

 心理テストだけでは客観性に乏しいと思われるところもあり、測れるのは基本的に自分自身でも意識できるようなことに限られます。一方で、MRIは、自分では意識することが難しいような情報を測ることができます。将来的に、心理データと組み合わせて、何か新しい情報を作り出すことができないかなと思っています。例えば、(被験者となる)学生さんが、自分で分からかなかった能力を知るきっかけを作れればと思っています。そのために、かなりの数の質問紙、心理検査などを使って心理データを取るとともに、様々な測定法を用いて脳計測を行っています。

 大学教育によって心理特性、脳もきっと変化している。我々としても、それを実験を通して何らかの形で表現できないか。その表現を通して大学教育の効果を多少なりとも定量化できれば、と考えています。

 なんにしても我々はデータがないと何もできません。質問紙や検査は10分程度で終わるものもあれば、2時間近くかかるものもある。数百人のデータをとっていますが、本当に学生さんに支えられて今回のプロジェクトが進められているなあ、と思っています。

東北福祉大学 教授
坪川 宏

〈研究にひとこと〉

東北福祉大学 准教授
大城 泰造

〈研究にひとこと〉

東北福祉大学 講師
曽根 稔雅

〈研究にひとこと〉

私は疫学の研究手法を用いて、個人の特性や生活習慣が病気や老化に及ぼす影響について研究を行ってきました。これまでに学んできた疫学の知識を活かして、本研究に少しでも貢献できるよう頑張りたいと思います。