Tohoku Fukushi University

グループA
「先端的fMRI測定法の開発」
リーダー:成 烈完

1.研究の背景・目的

 脳は精神・身体的活動を司ります。また、その脳の機能は教育や訓練、職業、個性などによって時間的に変化(可塑的変化)して行くと理解されています。ヒトの脳の機能を非侵襲的に計測する方法として磁気共鳴画像装置(MRI)がもっとも広く使われています。その理由の一つは、脳の情報をほかの方法より細かく読み取れることができるからです。

 我々は脳の機能をより精度高く計測するための測定方法の開発に力を入れてきました。近年、MRI装置の性能の向上と画像処理方法などの発達により、脳の機能を高い精度で計測することができるようになりました。

 そこで、本研究では、MRIを中心とした脳計測手法と心理・行動データなどを用いて教育効果・職業訓練・個性等の要因による脳の変化を定量的に評価できるようなシステムを構築し、社会的・職業的能力を育成する教育プログラムの改善支援などへとつなげる事を目指しています。

2.サブグループ別のテーマと遂行のための主なテーマ

(1)MRIによる脳画像データの収集

 脳は神経細胞(灰白質)と神経細胞同士をつなぐ神経線維(白質)とでできています。教育、訓練、職業、個性などの効果は脳の機能活動に反映され、また、そのような脳の機能活動の変化は脳の解剖的な構造への変化をもたらすことが知られています。

 本研究では、MRIにより脳の機能及び構造画像を収集します。MRIでは灰白質を強調する画像を得る測定方法と灰白質を強調する測定方法があり、それらの測定方法を用いて構造画像を収集します。それによって、脳のどの部位に変化があるかを特定します。

 脳の各部位は司る役割が異なることが知られています。そこで、変化を示した脳の部位がどのような機能を司っているかを調べるために、機能的MRI(fMRI)測定を行います。

 また、脳の各部位は、ほかの部位と協調してネットワークを組んで特定の役割を遂行することもあることが知られています。そのような脳の機能的ネットワークを計測するための測定方法をも使用します。

 さらに、ネットワークの時間的な動きを調べるために、必要に応じて、脳波(EEG)をも測定します。また、より精度の高い脳計測方法の開発をも続けます。これらにより、脳の機能・構造的な変化を読み取ります。たとえば、個人のデータを数年間計測することにより、その人の脳の時間的変化を読み取ることができます。

(2)MRIデータから教育・訓練・職業・個性などの効果を推定するプログラムの開発

 計測した脳のデータからは、個々人の脳の機能・解剖的な変化が読み取れますが、そのような変化が何を意味するかを理解することは難しいことです。それを理解するためには、何がそのような変化をもたらすかに対する情報が必要です。

 そこで、教育、訓練、職業、個性とかかわる多様な機能要素に関連する脳の働きを、心理・行動データなどを参考にして、辞書化しておきます。そして、ある個人の脳の機能・構造的データが得られれば、脳の辞書を開いてどのような教育及び訓練を受けたのか、または、どのような職業に従事したのか、あるいは、どのような個性を持っているのかを探します。

 そのような過程をコンピュータにより遂行するためのパターン認知・マシンラーニングなどのような方法を用いてプログラム化します。

3.期待される成果

 このような脳機能測定により、学業成績などの指標では把握できない社会的・職業能力への教育効果を定量化することが期待できます。また、その情報を現場にフィードバックし、育成プログラムの最適化などに利用することが可能です。さらに、個々人に最適な職業選択支援などにも利用することが可能です。また、脳機能計測のための新しい測定方法を提供することが期待できます。

グループB
「加齢・職業経験の異なる集団の認知・脳機能を比較する横断研究」
「パーソナリティの異なる集団の認知・脳機能を比較する横断研究」
リーダー:藤井 俊勝

1.研究の背景・目的

 インターネットの普及などに代表されるテクノロジーの進歩により、現代社会は急速に複雑化しています。この複雑化した社会の中で、どのように人々が職業を選択し、適応的に生きているか明らかにすることは、学術的に重要であるだけでなく、人間社会の今後の方向性を占っていく上でも重要な課題です。

 本研究では、加齢や職業により発達する社会的・職業的能力を同定することで、人がもつ適応性の一端を明らかにしていきます。

2.サブグループ別のテーマと遂行のための主な方法

 本研究の遂行に際し、職業・パーソナリティといった人の適応性に影響を与える要因に着目することが重要であると考えられます。

 そこで本研究では、①対象者の職業経験の情報(職種や経験年数など)、②パーソナリティに関する心理指標(個々人の性格特性を検討する為の様々な質問紙)、③MRIによる脳機能・脳構造・脳内情報処理ネットワークに関わる情報を照らし合わせ,統計学的手法により検討を行います。

 グループBでは特に、①職業の違いによる認知の差異、②パーソナリティに関する心理指標(個々人の性格特性を検討する為の様々な質問紙)の違いによる認知の差異、③加齢による認知の変化、に着目した検討を行います。具体的には、職業・パーソナリティー・年齢の点で異なる集団における認知的差異を比較する横断研究を実施し、認知の変化・差異がどのような脳の機能的・構造的変化に起因するものであるか明らかにします。

 すでにMRIを用いた若年者と高齢者の社会的認知に関する比較研究には着手しており、加齢がもたらす認知的変化の背景に存在する脳機能・脳構造の変化についてエビデンスが蓄積されつつあります。

3.期待される成果

 本研究では、縦断研究が難しい数十年単位といったライフスパンでの認知・脳機能変化を捉えるために,若年者と高齢者を対象にした比較検討や職業の異なる対象者の比較検討を行います。

 本研究により期待される成果は、神経科学や心理学といった学問領域に対する寄与にとどまらず、社会学や行動経済学といった、人や社会を扱う様々な学問領域に寄与しうるものであります。また、職業選択がもたらす認知機能の変化についても、脳の情報処理の観点から知見を提供することが可能なため、広く一般社会に対しても重要な知見をもたらしうるものとなります。

グループC
「個人の認知・脳機能変動を追跡計測する縦断研究」
リーダー:河地 庸介

1.研究の背景・目的

 これまで個々人の持つ社会的能力(社会的スキルや自他理解)や職業適性を測定するというと、数時間の中で実施可能な少数の心理検査・質問紙で簡便に測定するというのが一般的でした。ですが、当然ながら個々人のもつ社会的能力や職業適性は1つの検査では測定しきれない多様な側面を持つとともに、日常生活で得られる経験の中で時々刻々と発達していくものと考えられます。

 そこで本研究では、簡便さを追求するのではなく、複数回にわたって可能な限り多くの心理検査・質問紙を用いて精緻に測定を行っています。また定期的な測定を行うことで経験に伴う発達を捉える試みを実施しています。

 本事業では、心理検査・質問紙調査の実施とともに脳の構造・機能の計測も定期的に実施しています。心理検査・質問紙調査は、人のもつ高度な知性・理性・感性を測定できる有効な測定法と言えるものの、主として測定対象者が意識できるもののみを測定しています。

 他方で、我々が用いる脳構造・機能計測であれば、対象者はその脳構造や機能を意識できませんが、種々の計測・解析を行うことで脳構造や機能から潜在的に持っているかもしれない社会的能力や職業適性をみつけることができる可能性があると考えています。

 このように本事業では心理検査・質問紙による測定と脳の構造・機能の計測を組み合わせて定期的に実施することで、個々人のもつ社会的能力や職業適性の経験(特に大学教育や生活)による変化を捉えようとしています。

2.サブグループ別のテーマと遂行のための主な方法

 大学教育や生活習慣等が個々人の持つ社会的能力や職業適性の発達に及ぼす影響を測定するために、多数の心理検査、質問紙、コンピューターや装置を用いた実験を行っています。測定のターゲットとなる能力としては、注意・記憶・言語能力等の基本的な認知機能をはじめとして、社会的スキル、情動理解、自己・他者理解といった社会的能力に至るまで幅広くカバーしています。

 得られた個々の心理学的データを統計的に検討していき、種々のデータが指し示す心的機能の間に潜む関係性を明らかにしていきます。同時に、脳機能・構造データと心理学的データを組み合わせて検討するなどして、心的機能とそれを実現する脳活動/構造の関連についての知見を数多く生み出していくことを目指しています。

3.期待される成果

 社会的・職業的能力に大学教育や日々の生活習慣等が及ぼす影響を数値で表現することができます。また定期測定をすることで教育・訓練がその効果を発揮するまでに要する期間等の評価指針を提供したいと考えております。このような成果とともに、個々人がこれまで意識してきた社会的・職業的能力のみならず、潜在的に保持している社会的・職業的能力をみつけられる可能性があります。

 本事業のように多くの方々に実験に参加して頂きながら、数年間にわたって定期的に心理学的データや脳機能・構造データを集められる機会というのは滅多にあることではありません。このまたとない機会を最大限活かして、参加者の方々の潜在的な能力を見つけ出すという今の計測・解析技術でなければできない興味深い課題に取り組むとともに、大学教育や大学生活に関連する方々へ少しでも有益なフィードバックをしたいと考えています。