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研究・社会貢献

大泉研究室「アルツハイマー病等の認知症の予防・治療確立をめざして」

当研究室は、独自の戦略に基づいて認知症の主要疾患であるアルツハイマー病の有効で安全な予防・治療技術の確立を目指している。それに有効な機能性食品の開発に必要な基礎および応用研究を最先端技術を用いて展開している。

最近の「ライフサイエンス財団」の調査によれば、「アルツハイマー病等の認知症の予防・治療法の確立」が医療現場で重要課題のトップにランクされるに至った。その理由として、きわめて深刻な病気にもかかわらず、その予防・治療技術がいまだに開発されていないからである。我々は20数年前からアルツハイマー病の予防・治療の技術開発をめざし、独自の新戦略に基づいて、研究を行ってきた。その戦略とは、次の5つの条件を満たす天然物質を見いだすことである。1.記憶障害を改善する天然物質 2.アミロイドβ(Aβ)及びリン酸化タウ蛋白質 3.Aβの神経毒性を抑制する天然物質 4.コリン作動性神経を再生させる天然物質 5.低分子でニューロトロフィック作用を示す天然物質 その結果、新しいタイプのアルツハイマー病の予防・根本治療方法確立するために最も有望な物質として、陳皮(温州ミカンの果皮)の成分ノビレチン(図1)を発見することに最近成功した(大泉,薬学雑誌,135, 449-464 (2015))。


図1.陳皮及びノビレチン

ノビレチンは、次の7種類の記憶障害モデルマウス動物全てにおいて抗認知症作用を示した(Nakajima A., Ohizumi Y., Yamada K., Ciin. Phychopharmacol. Neurosci., 12, 75-82 (2014)。1.急性アルツハイマー病モデルラット 2.慢性アルツハイマー病モデルマウス(アミロイド前駆体蛋白質トランスジェニックマウス) 3.コリン作動性神経変性を伴う嗅球摘出誘発性記憶障害モデルマウス 4.NMDA受容体遮断薬誘発性記憶障害モデルマウス 5.老化促進モデルマウス 6.パーキンソン病モデルマウス(認知機能障害)7.総頸動脈結繋能虚血モデルマウス及びラット 例えば、ヒトのアルツハイマー病に最も類似していると考えられるヒトのアルツハイマー病患者の遺伝子を導入したマウス(Tgマウス)に対する、ノビレチンの抗アルツハイマー病効果を検討した。その結果、記憶障害が起きている起きているこのモデルマウスにノビレチンを投与すると、健全なマウスの記憶力のレベルまでに完全に回復するとともに、その病気の原因物質とされるAβ蛋白質の海馬における蓄積量が顕著に減少するという極めて興味深い事実を発見した(図2)。


図2.APPTgマウス(Tg)における記憶障害(A)及び海馬のAβ
蓄積(B)に対するノビレチンの効果

一方、ノビレチンの抗認知症効果の作用メカニズムの研究も急速に進展している。神経細胞を用いて記憶にとって重要な細胞内のシグナル伝達に対するノビレチンの効果の詳細な解析を行い、その分子作用メカニズムが解明されつつある。例えば、ノビレチンのAβの神経毒性を軽減させる作用メカニズムの詳細を明らかにするため、培養神経細胞に対する作用を検討した。その結果、ノビレチンがCRE依存性の転写活性とカップルしているCREBを介した細胞情報伝達を活性化させ、Aβによるこのシグナル伝達阻害を改善させることを示した(図3)。


図3.初代培養ラット海馬神経細胞におけるノビレチンによるCREBリン酸化およびCRE依存的転写の活性化作用

私共の最近の大きな研究成果のひとつとして、ノビレチンの遺伝子レベルにおける作用解析する研究が進展したことがあげられる。この成果は、ノビレチンの認知症に対する有効性を解明するうえに、重要な発見であると期待される。

記憶・学習に直接深く係っているNMDA受容体及びアセチルコリン受容体等のmRNAの発現に対する作用を、PC12細胞を用いて検討した結果、ノビレチンがこれらを顕著に促進させることが明らかとなった(図4及び5)。

一方、ヒトニューロブラストーマ細胞をノビレチンで処理すると、酸化ストレスにより促進される遺伝子Txnip発現の減少並びに小胞体ストレスにより生ずるアポトーシス及びthioredoxin-interacting protein(TXNIP)の発現の増加の抑制が認められた。これらの結果は、酸化ストレス及び小胞体ストレスに対するノビレチンのこれらの作用が、記憶障害からの保護及びその改善効果に関与していることを示すものである。


図4.PC12細胞におけるノビレチンによるNMDA受容体遺伝子の発現上昇作用

図5.PC12細胞におけるノビレチンによるコリン作動性神経関連遺伝子の発現上昇作用

我々は、現在これらの研究成果に基づいて、認知症の予防・根本治療に役立つ機能性食品の開発に力を注いでいる。そのひとつのアプローチとして、健康食品のなかで、ノビレチンの抗認知症効果をさらに強める作用(相乗作用)を示す食品の検索を試みている。このようなノビレチンの機能性食品への応用開発研究の一環として、大泉康教授を研究統括者とし、静岡県立大学を中核機関とする国のプロジェクト研究である「平成20年度新たなの黄燐水産政策を推進する実用技術開発事業」(3ヵ年)における「未利用みかん果皮の抗認知症成分活用技術と高付加価値の開発」さらに、「平成23年度農林水産物・食品の機能性等を解析・評価するための基盤技術の開発」(3ヵ年)における「柑橘類果皮を利用した抗認知症機能性食品の開発に向けた基盤技術の開発」が採択され、この2つのプロジェクト研究を推進した。これらの研究では、柑橘類の果皮の成分「ノビレチン」が認知症の改善に期待されることに着目し、抗認知症機能性食品の実用化に取り組んだ結果、その機能性食品開発研究に長足の進歩が認められた。

詳しくはこちらへ
 PDF「柑橘類果皮を利用した抗認知症機能性食品の開発に向けた基盤技術の開発」

OPINION「健康長寿を目指す社会における薬学者の責任」

略歴

氏名:大泉 康(おおいずみ やすし)

専門:生薬学,天然薬物学,漢方薬理学,薬理学

学歴 昭和42年3月 東北大学医学部薬学科卒業
昭和47年3月 東北大学大学院薬学研究科博士課程修了(薬学博士)
職歴 昭和48年4月 東北大学薬学部文部技官
昭和48年8月 東北大学薬学部助手
昭和52年1月 米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部
薬理学教室ポストドクトラルフェロー
昭和53年 4月 東北大学薬学部講師
昭和53年 5月 三菱化成生命科学研究所薬理学研究室副主任研究員
昭和55年 6月 同主任研究員
昭和63年 4月 三菱化成生命科学研究所筋細胞生理学研究室室長
平成 2年 4月 東北大学薬学部教授(生薬学,生物薬品製造学特殊講義担当)
平成 2年 9月 千葉大学真核微生物研究センタ-作用機構部門教授(併任)(~平成3年3月)
平成18年 4月 横浜薬科大学教授(~平成26年3月)
東北大学名誉教授(~現在)
東北大学大学院工学研究科超臨界溶媒工学研究センター超臨界天然物 研究室客員教授(~平成21年3月)
放送大学非常勤講師(~平成19年3月)
平成20年 3月 静岡県立大学薬学部客員教授(~現在)
平成20年11月 静岡県立大学薬学部特任教授(~平成26年3月)
平成21年 4月 東北大学大学院工学研究科抗認知症機能性食品開発寄附研究部門客員教授(~平成25年3月)
平成25年 1月 東北福祉大学特任教授(~現在)
平成25年 4月 東北大学大学院工学研究科抗認知症機能性食品開発寄附研究部門研究員(~平成26年3月)
資格 昭和42年12月1日 薬剤師免許(登録番号108437)
昭和47年3月1日 薬学博士(東北大学)
表彰 昭和62年4月 日本薬学会奨励賞受賞
受賞タイトル「イオンチャンネルに作用する海産生物毒の薬理学的研究」
国のプロジェクト研究 平成17年7月 平成17年度長寿医療研究委託事業 「記憶障害モデル動物における F-1およびその誘導体の予防・治療効果の行動薬理学的評価」主任研 究者(~平成20年3月)
平成20年6月 平成20年度農林水産省委託プロジェクト 「未利用みかん果皮の抗 認知症成分活用技術と高付加価値品種の開発」プロジェクトリーダ ー(~平成23年3月)
平成23年8月 平成23年度農林水産省委託プロジェクト 「柑橘類果皮を利用した 抗認知症機能性食品の開発に向けた基盤技術の開発」プロジェクト リーダー(~平成26年3月)

最近15年間の研究成果<大泉康>
 原著論文、著書・総説・ミニ総説、特許

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公開日:2016年2月18日

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